パッカーズのトレーニングキャンプ

トレーニングキャンプとは

NFL各球団は7月末ごろから約1か月にわたってトレーニングキャンプを行い、シーズン開幕に備えます。その他にも5月や6月にOrganized Team Activities(OTA)やミニキャンプが行われますが、そこではフルパッド練習やコンタクト練習が禁止。先発争いや生き残りを賭けた真剣勝負が見られるのはトレーニングキャンプだけなのです。

キャンプ地は球団によってさまざまです(キャンプ地リスト)。比較的小規模な大学(夏休みなので静か)でキャンプを行う球団が多いですが、シーズン中と同じ練習施設で行うチームもあります。ふつうスタジアムがダウンタウン型であれば郊外に球団本部&練習施設を構えていますので、それをそのまま利用するわけです。

「プレシーズン初戦の15日前にならなければキャンプを初めてはならない」という規定により、プレシーズン初戦の日程に合わせて各球団のキャンプ初日が自動的に設定される仕組みです。キャンプの合間にプレシーズンゲーム4試合が組まれ、しだいにシーズン中と似た軽めの練習スケジュールへとシフトしていきます。プレシーズン2試合目の前後あたりでキャンプ地での合宿生活を終了して本拠地へと戻っていく球団が多いようです。

パッカーズのキャンプ地

グリーンベイ・パッカーズは毎年 St. Norbert College の学生寮に宿泊してトレーニングキャンプを行います。これは1958年以来のことで、こうした関係としてはNFLで最も長い歴史を持ちます。カトリック系のセント・ノーバート大学は1898年創立、グリーンベイ南郊のデピアにあり、ランボーフィールドからわずか5.6マイル(車でおよそ11分)の距離。(下の地図参照)

宿泊や食事や夜のミーティングを行うのはセント・ノーバート大学ですが、じっさいの練習はランボーフィールド東どなりのレイ・ニチキ・フィールド。シーズン中の練習と同じ場所です。選手たちは学生寮で宿泊し、毎朝バスでランボーフィールドに通ってきます。ロッカールームで着替え、トレーニングや治療やミーティングを行うのもすべてランボーフィールド。そして子供たちの差し出す自転車に乗って練習フィールドへ向かいます。そういったわけで、「パッカーズはデピアのセント・ノーバート大学でキャンプを行う」という表現は半分しか当たっていないことになります。

グリーンベイに留まってキャンプ練習を行うのは、地元への経済波及効果も非常に大きいものがあります。夏の休暇に涼しいグリーンベイを訪れ、ゆっくりと家族と過ごしながらキャンプ練習やランボーフィールド訪問も楽しむ、というファンは数多いのです。4人家族でゲームを観戦しようとすればチケット代は1000ドル前後にもなってしまいますが、キャンプ訪問は無料なのですから。

ファン公開

基本的にパッカーズの練習はすべてファンに無料公開されます。公式サイトの練習スケジュールで "No Practice" とか "Closed to the Public" などと書かれていない日ならすべて見学可能。ただしよい場所を取るには早い者勝ちです。フィールド東側にある観客席(5段ほど + 最後列の立ち見)の定員ははっきりしませんが、1500人から1800人ぐらいのようです。観客席を確保できなかったファンは北側の細い道路沿いで鈴なりになって観なければなりません。

観客数は日によってさまざまで、少ない日で1500人、多い日は2000人を大きく超えます。もちろん優勝の狙える年ならばファンの盛り上がりも大きくなることでしょう。キャンプ後半になって練習内容が軽くなるにつれ、観客数も減る傾向にあります。

ふつうプレシーズンゲームの前日と翌日には練習は行われず、最近では試合後2連休とすることも多くなりました。

選手たちの一挙手一投足に注目が集まる
フィールド東側に設置された観客席
混んでいる日は北側の道路沿いもこんな感じ (奥に見えているのがランボーフィールド)

練習フィールド

かつてレイ・ニチキ・フィールドはシーズン中の非公開練習用で目隠しシートが張り巡らされていましたが、2009年に大きな改修工事を済ませて公開練習用に昇格しました(写真集)。位置がフィールド1つぶん西に移動し、初めて観客席ができました。今後さらに拡張される可能性もあります。

レイ・ニチキ・フィールドには、ランボーフィールドと同じ DD GrassMaster (天然芝を3%の人工芝で補強したもの)が敷かれています。地下にヒーティング・システムが埋設されているのも同じ。

雨天の場合は、すぐ西側にある屋内練習場ドン・ハトソン・センターに移って非公開練習となります(サービスで短時間ファンを招き入れることも)。こちらのフィールドにはシェアNo.1の人工芝 Field Turf が敷かれ、シーズン中の寒い時期の練習はほとんどがここで行われます。

練習が終わると、選手たちはふたたび少年少女ファンの自転車でランボーフィールドに帰ります。ヘッドコーチもランボーフィールドで会見を行いますが、夜練習など時間がないときはフィールド脇のスペースで会見することも。最初はケガ人報告、それから先発争いや新人の成長といった話題に移っていきます。

かつてキャンプ練習を行っていたクラーク・ヒンクル・フィールドは屋内練習場をはさんで西側、つまりランボーフィールドの東隣にあります。交通量の多いオナイダ・ストリートに面しているため、あふれたファンが歩道にはみ出て危険でした。また、周囲に拡張の余地がなく、スタンドなどを作るためにはレイ・ニチキ・フィールドに移るしかありませんでした。

合宿生活

選手たちは殺風景な学生寮に2人1部屋で宿泊します。4人部屋に2人なので窮屈ではないにせよ、彼らがふだん暮らす自宅と比べて非常に質素な生活なのは言うまでもありません。一般に新人は新人同士、同じポジション同士で同室となることが多いようです。テレビやビデオゲームの持ち込みも自由。ベッドは球団負担で大型のものが持ち込まれます。(2009年のILBバーネットによる爆笑ビデオレポート

セント・ノーバート大で選手たちの食事を用意するシェフたちの話題は2010年7月の記事を参照。

キャンプインから3週間ほど経ち、プレシーズン2戦目の直前あたりで合宿生活は終了します。トレーニングキャンプとしては続いていきますが、選手たちは愛する家族の待つ自宅から練習に通うことができ、実質レギュラーシーズン中に近いスケジュールになっていきます。

この学生寮に選手たちは宿泊する
やや緊張した面持ちで入居する新人選手たち
2009年のILBニック・バーネットによる爆笑ビデオレポート)

"Bike Ride"

さて練習の準備を済ませた選手たちがランボーフィールドから出てくると、少年少女ファンが自転車を持ってずらりと待ち構えています。選手はその中から1人を選んで自転車を借り、子供たちはヘルメットを大事に抱え、選手と談笑しながらレイ・ニチキ・フィールドへと向かうのです。もちろん自転車に余裕があれば2人乗りもあり。(ルート図

小さな自転車で四苦八苦しながら進む選手の姿はなんともユーモラス。親御さんはルート上で待っていて記念写真を撮り、その他のファンもお目当ての選手とハイタッチをするために待ち構えています。ファーヴやロジャースなどエースQBは、混乱を起こさないよう車で移動するのが普通のようです。

こうした微笑ましい光景はグリーンベイの夏の風物詩であるとともに、パッカーズとファンの親密な関係を示す最も重要な伝統といえるでしょう。この素晴らしい習慣がいつから始まったかははっきりとしませんが、どうやら1960年代のヴィンス・ロンバルディ時代にいつの間にか行われるようになったと言われています。

好きな選手と当たりますようにと祈りながら待つ
ファンとハイタッチしながらレイ・ニチキ・フィールドへ
巨漢選手が乗って自転車が壊れることも
ミニ自転車に苦戦する WRドナルド・ドライバー

updated : 2012/09/30